エリートな彼と極上オフィス
もー、と憤慨した声が上がる。

わかる、この会社の縦割りっぷりはなかなか徹底しており、周囲の部署の情報は、基本入ってこない。



「そちらはもちろん拡販目的ですが、お客さまから見て、メーカーコンテンツが乱立するのもですね」

『もちろん避けるべきね、情報をありがとう、販促と話してくるわ、また何かあればご相談します』

「お待ちしてますー」



無駄に緊張感のあった会話は、なごやかな雰囲気のうちに終わった。

あろうことか互いに有益でもあった。

なんだ、ちゃんとした人じゃん。

そりゃそうか。


とりあえず、妙な失態やバカを晒さずに済んでほっとした。

よく考えると、私がこんな心労を負うのも理不尽な気がしてくる。



(先輩が悪いんですよ)



あっちにもこっちにもいい顔して。

それがほんとに自然体だから、やきもきするのは周りばかりで。

わかりやすいくせに、何考えてるのかさっぱりで。


長く会っていないせいか、不満ばかり募る。

ああ、会いたいなあ。





会社終わりにエントランスを出たところで、湯田、と呼ばれた気がした。

また呼ばれる。


きょろきょろしてみて、声の主を発見した。

通りの向かい側から、日の暮れた都心をバックに道を横切って駆けてくる姿。

ガードレールを軽々とまたぐ様子は、欲目なしにかっこいい。



「おー会えた会えた、やった」



上着を片手にかけて、息を切らしてる。

背後のコンビニの店頭に、ぽつんと佇むスーツケースは、まさか放り出してきたのか。

そこまでしなくても私、逃げませんて。



「直帰じゃなかったんですか、先輩」

「会社には寄る気ないけど、はい土産」


< 75 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop