エリートな彼と極上オフィス
無頓着に渡された小さな紙袋は、中でリンと鈴の音がした。

中を覗くと、ご当地もののキャラクターのチャームがわさわさと入っている。



「これは」

「あれっ、集めてるよな?」



実は集めている。

正確に言うと、集めていた。

学生の頃から、旅行先で買ったり帰省した子がお土産にくれたりして、それがなんとなくコレクションになっていた。

収集熱こそ冷めたものの、会社の携帯に週替わりでつけては楽しんでいるのを、先輩は見ていたらしい。



「あとこれも、生菓子だから明日中に食って」



はい、と更に渡されたのは、有名なロールケーキの紙袋だ。

わお。

でも、お土産に生菓子って。



「今日渡せなかったらどうするおつもりで」

「自分で食おうと思ってたよ」

「先輩が家で、ひとりでケーキ?」



いばれた図じゃない自覚があるのか、別にいいだろ、と恥ずかしそうに声を尖らせる。

その顔から、さすがに少しの疲れを感じた。


空港から先輩の家に帰るのに、ここは別に通り道じゃない。

まさか、これを私に渡すためだけに?



「ありがとうございます、それと」



お帰りなさい、と見上げると、ちょっと照れたように、ただいま、と微笑んだ。



「詰め込んだスケジュールで、きつかったんじゃないですか、お疲れさまでした」

「ほんと疲れた、なあメシまだなら、どっか入ろうぜ」

「もちろ」

「あれっ、航?」



弾んだ声が、私の返事に重なった。

振り向けば予想どおり、おお…中川嬢。

狙っても狙えないようなこのタイミングに、もはや落胆より恐れが襲う。

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