甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「大事にしろって、天野にも言われたよ」と顕は呟いた。
「え?」
「病院で話したとき、この子はすごいお前のことを大切に感じてるんだなって伝わってきたって。だから、大事にしろってさ。
なんか今日は、周りからお前を大事にしろと言われてばかりだな」

遅れて、さっき綾仁くんにも同じような言葉を投げ掛けられたことを思い出した。
急に心臓の鼓動が速くなるのは、何かを終わらそうとするような切なさが込み上げてきたからで、「大事にされてるよ」とムキになって、返していた。

「周りから言われることって、的を得てるからな。そう見えるってことはそうなのかとも思った」
「……考えすぎだよ」
「別に雪に限ったことじゃないけど、何か不安か?」
「全然」と言ったけど、言葉通りに伝わらなかったようで
「何か隠されていたらと思うと、俺は不安だけど」

嘘は吐けない。小さい事だと隠していることも伝えたほうがいい気がして
「正直に言うと、顕の地元に馴染めるかなとか、仕事とかあるかなとか考えるとちょっと不安はあるよ」
ああ、だよなと小さく呟いた。
「あと、本当は、こっちに住めるなら住みたいなっていうのは少しある。
だけど、それ位だし。それより、顕といられないことの方が嫌だから、だからやっぱり一緒に行きたいよ」

そうかと呟いた。
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