甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

向き合いたくない本音


綾仁くんとは短いメッセージのやりとりをした。
恋愛対象に見られていないことは重々承知しているけど、彼とのやりとりは正直胸を弾ませた。



定時を過ぎたオフィス。
今日は仕事いまいちだったなと肩を落とす感じ。
なんだか久しぶりだ。
この感覚を味わっているのはあまりよろしくない。あまり直視したくない部分が見えてきてちょっと辛くなる。昨日感じた自分の至らなさにげんなりして、下手すると暗い世界に身を落としてしまいそうだ。

デスクに座っていると私の後ろを通る課長が「うっわ」とげんなりした。
「あれ? お疲れ様です」
「お疲れ様ですじゃねーよ。なんでスルメ食ってるんだよ」
「あたりめです」
「どっちでもいい」
「いや。小腹がすいて、誰もいないからいいかなーと思って」
「持ち歩いてんのか」
「たまに。非常食です」
まったく親父はと小さく呟いて、デスクに鞄を置いた。

「直帰だったんじゃないですか?」
「の、つもりだったんだけど。ちょっとな」とパソコンに向かう。ピリピリしている感じが伝わってきたので、押し黙った。

私の日報の打ち込みが終わる頃、課長もパソコンの電源をオフにしていた。

「……あ、課長も帰るんですね」
「ん? ああ」
ぐうっと私のお腹の音が響いた。
「小腹じゃなくて、大腹だな」と真顔で言う。
「そのようですね」
「なんか食って帰るか」
「え? 本気ですか?」
「なんで小千谷相手にふざけなきゃなんねーんだよ」
「じゃあ行きます」と言うと、「ラーメンな」と言った。
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