甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「なんの話だよ」
「はは」
「なんか行き詰ってんのか」
「いや。そういうわけじゃないんですけど。なんていうか、一つの事を決断できないだけで、大ごとにとらえてしまう時期なんですかね」 

そこで日曜日は予定があることを思い出して
『誘ってくれてありがとう。日曜日は予定があったんだ。ごめんなさい。今日は仕事かな? 金曜日だからお店混みそうだよね。頑張ってね』と返信した。

顔を上げてから
「課長はいいですね」
「何がだよ」
「はっきりしてて、迷いがなくて、筋が通ってて、なんかいつだって自分が正しいと思ってるみたいだし、周りのことなんか基本どうでも良くて、気持ちと言いたいことが同じで」
「嫌味か。俺はそんなこと躊躇いもなく言える小千谷のほうが正直だと思うけど」

どこがですかと返して、また若槻と課長が重なった。

「若槻と課長ってなんか似てますね」
「どこからそれが出てくるんだよ」
「若槻も芯があるし、それに沿って行動してる感じがする。私はなんかごちゃごちゃ考えて、反省して、それなのに結局なんにも変わってないどころか、
出来ることをやることでこれでいいんだって自分を誤魔化してます。同じラインをずっと走ってるような感じです。ただ走ってることに満足してるだけで」

本当はずっとこんなことを感じていたのかと課長に吐露しながら気づいていく。
何言ってるんだって気がして取り繕うかと思ったけど、そっちのほうが惨めだからやめた。

「羨ましいです」
はっきり告げると冷ややかな表情のままだった。
「羨ましいか」
そう言うとラーメンが運ばれてきた。
課長がパチンと割りばしを割ると「呪いの言葉だな」と呟いた。
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