夢恋・second~その瞳に囚われて~
「ごめんな。…ごめん、芹香ちゃん。なにも言わせてやれないで。そんな余裕は、今の俺にはないんだ。君に去られたらどうしようかと、いつも必死で考えてる」
言いながら煙草の火を消すと、佐伯さんは振り返り、私の方まで駆け寄ってきた。そのままきつく、私を抱きしめる。
「いっそ、このまま君を俺のものにできたならば。無理矢理全てを奪う勇気があればいいのに。ごめん…どうしたらいいのかわからないんだ」
私の肩に彼の吐息が落ちてくる。
彼の苦悩が私の心に染みて刺さる。
「歳も離れているし、自信が持てないのかもな。いつ別れてほしいと言われるのかなんて、つい考えてしまうんだ」
あなたが思う通り、私が言おうとしていたのは別れ話。
逃げ出して楽になりたかった。あなたの気持ちも考えずに。
「悪いのは私なのに謝らないでください。ごめんなさい…」
私はそれ以上はなにも言えずに、彼の肩越しに見える夜景を見つめていた。
この無数に輝く光の中のどこかに、拓哉はいるのだろうか。
愛しい人の温もりを、その腕に感じながら眠っているのか。
『芹香……好きだよ。ずっと……』
再び拓哉の声を耳に感じた瞬間、涙がひとしずく私の頬を滑り落ちた。