クールな同期が私だけに見せる顔


「あの。省吾、私、自分の家に帰るからこのまま乗って行ってくよ」
私は勇気を出して言う。

ここで頑張れば、一人になれるかもしれない。

「うるさい、黙って」

私を解放してくれるつもりは、少しもないようだ。

「私が何しようとしても、しょ、省吾が怒ることないでしょ」


「黙ってろ」

彼は、悪いことをした子供をにらみつける様に鋭い目で睨みつける。

そして、怖い顔をしたまま言う。

「こっちへ来い」

私は、後ずさった。
逃げると言っても、タクシーの扉にへばりつくぐらいのことだけれど。

省吾は、難なく私をつかまえた。

彼は、何を思ったのか、ポケットからハンカチを出して、私の口に押し付けた。

押し付けたなんて可愛らしいもんじゃなく、無理やりねじ込むように口紅を拭い去った。

「な、何するのよ」

「きれいにしてやってるんじゃないか。目の前でキスなんかしやがって」

彼は、ハンカチで私の口を拭いたのだ。

「省吾、痛いって。やめて」

「お前、俺があんなの見せられて、何とも思わないとでも思ってるのか?」

自分ハンカチで、何度も拭いて、きれいに口紅ごとぬぐい取った。

「それなら聞くけど、私と付き合っていながら、別の女性とも付き合うのは、俺の勝手だ、文句を言うなと言いたいの?」

「何の話だ?」

省吾は腕を組んでまっすぐ、運転手の後頭部を睨みつけていた。

「えっと、私、一人で帰れるからこのまま……」

このまま乗って行っていい?

彼の家の近くまで来た。

タクシーが徐行運転した。
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