クールな同期が私だけに見せる顔
「ちょっと待って、省吾。
女性の一人暮らしなんだから中に入ろうなんて、甘いじゃないの。
私は、省吾と付き合ってるわけじゃない。
だから、遠慮して。
まったく、誰があなたを簡単に部屋に入れますかって言うの」
ハッキリ言ったのに、彼はまったく気にしてない。
「いいのか?せっかく、すんげえいい肉買ってきたのなあ。
ほんとすごいぞ。高級和牛の霜降り肉」
「じゃあ、肉だけよこして」
私は、手を出す。
「駄目。一人じゃ食べきれない量だし。
俺が全部料理してやる約束だろう?お前、肉のうまい料理の仕方わかってないだろう?だから、座って待ってろ」
お腹が減っていた。
そこに美味しいお肉。
それだけでも、魅力的。
もうダメ。
座って待ってろか……
この言葉にころっといってしまった。
彼は、肉はもちろん。
卵に至るまで材料を完璧に揃えて、狭いキッチンテーブルの上に、一杯に料理を並べた。
「うわーい、すき焼き。久しぶり」
「だろう?」
料理は、本当に美味しかった。
省吾に、そんな才能があるなんて知らなかった。
「あんた流石だね。伊達に女の子たらしこんでないわね。女の子も胃袋から、攻めるんだ」
「人聞きの悪い事言うな。俺は、付き合う相手に喜んでもらいたいだけで……」
「はい、はい。分かった。本当に美味しかった。
片付けなんかいいから、ごちそうさま。お帰りは、あちらです」
「おい、それ、酷くないか?
遠慮なく肉だけ食いやがって。もう、俺は用なしか?」
「電車なくなるといけないもの……」
「嫌だ。冗談じゃない。
肉だけ食いやがって。俺、晴夏と全然話してない。話してないうちは、帰れない。
だから、もう少しここにいる」
「何言ってるのよ。
話は、付いてるはずでしょう?」
「あんな、一方的な話し合いなんかで、納得出来ない」
「あのね、省吾くん。
そもそもあんたが、そういう深い付き合いを望まないから、こうなってるんでしょう?」
お腹一杯で、いい気分だった。
でも、彼の言葉は、いい感じの私の感情を逆撫でした。
「分かった。付き合うよ。どこまでも付き合うから、帰れとか言うな」
「駄目。分かってない。適当に言うと怒るよ。だから、今日は、帰りなさい」
私は一歩も引かず、二人でにらみ合った。
「わからず屋のバカ」
省吾はそう言い捨てると、表情を変えずに立ち上がった。
そして、パタンとドアが閉まって、
省吾が出ていった。
ドアの音が狭い部屋に響いた。