強引社長の不器用な溺愛
「近くのイタリアンを予約してみたんですけど。お嫌いではなかったですか?」


私が問うと、清塚さんが勢いよく答える。


「いえ!好きです。……大丈夫です」


最初の『いえ!』が大きい。それを恥じるように清塚さんの声音は小さくなった。
彼の緊張感が伝わってくる。

たぶん……、清塚さんは私を悪しからず想っている。

クリスマス出張で連絡先をもらってから、私たちは何度かメールのやりとりをした。
他愛ない日常のことや、仕事のことも少し。

今日、研修で上京することになった清塚さんに、食事を誘われたのも自然の流れだ。


「清塚さん、大学時代はどちらにお住まいだったんですか?」


歩きながら彼を見上げる。社長と同じくらい背が互い。185センチはありそう。


「あ、大学の近所の寮に。院時代なんか、研究室が家みたいなもんでした」


「あはは、よく聞きます。そういうの」


清塚さんが車のたてる騒音に一瞬黙ってから、続きを返す。


「篠井さんは文学部でしたっけ。在学、かぶってたんですよね」


「まあ、大きい大学ですしね。卒業して社会で会って、え?同級生なんてこともあるんじゃないですか?」


「大学時代に出会っていればなぁ」


ぽつんと新宿に夜に放出された、小さな小さな呟き。

ドキッと心臓が鳴った。

なに、今の。
えーと、清塚さん的な口説き文句なのかな。

いや、そうだよね。こういう時ってどう返すのが普通なの?
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