強引社長の不器用な溺愛
でも、清塚さんは誘ってこない。やっぱり草食系で紳士だ。

なにより、誘われたら私の狼狽は尋常じゃなかったこと請け合い。当然お断りする。
無理だ、そんなの処女にはハードルが高すぎるもん。

その時だ。

背の高いビルと、その隙間の夜空を眺めていた清塚さんの身体がぐらっと傾いだ。


「危ない!」


私は咄嗟に腕を伸ばす。
清塚さんが本気で倒れたら、私には支えられない。しかし、彼は2、3歩よろめいただけだった。

私は彼の左腕を抱きしめた格好で安堵の息をつく。
清塚さんは何度か頭を振り、恥ずかしそうにうつむいた。


「すみません、実はお酒があまり強くないほうで。上を向いていたら、くらっときてしまいました」


「今日はフルボトル飲んじゃいましたもんね」


「カッコ悪いなぁ」


苦笑いする清塚さんの顔が近い。
かっこ悪くなんてないけど。むしろほとんどの女子が母性本能をくすぐられそうだけど。

……でも、なんでだろう。

私、全然ドキドキしない。

こんなにくっついてるのに。こんなにイケメンなのに。
恋してみようかなって、思ってるのに……。


私はやってきたタクシーをつかまえ、清塚さんを乗せた。
車窓に向かって手を振ると、清塚さんが柔らかく微笑んで手を振り返してくれた。

その顔はやっぱりあの俳優に似ていて、文句なしに素敵なんだけど……。

私の胸は異常なし。動悸もなけりゃ、キュンと痛くもなってない。
それってとても変な感じだった。



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