強引社長の不器用な溺愛
「それとこれとは別の話だろ、母さん。“着物のさこた”は兄貴が継ぐべきだ。親父は口にしづらいだろうけど、心の中じゃそう思ってる。俺じゃ、“着物のさこた”をつぶしちまうよ」


「何を言ってるの!あなたが八束の家の正当な跡取りです!幸弥じゃ駄目なのよ!」


母がエキサイトしてくる。
俺のでかい声は母親似だなと、こんな時に場違いなことを考える。


「兄貴のどこが駄目なんだよ。俺の100倍くらい頭も性格もいいじゃねーか。大ばあちゃんだってそこは兄貴を認めてる。いい加減聞き分けてくれよ」


「卑しい血の入った者は八束の家にも硲田の家にもいらないのよ!」


卑しい血ってさ。どこの選民思想だよ。
俺たち、選ばれた一族でもなんでもねーぞ。

兄貴への無意味な敵意を感じ、俺は次第に苛立ってきた。
それでも必死に声を押し殺す。


「母さんはさ、兄貴がどれだけ認められたい、愛されたいと思ってるか気づかねぇんだ。この前の誕生日、兄貴が母さんに贈った時計、あれは兄貴と恋人の真冬さんが選んだもんだぞ。ふたりで母さんに似合うものをって選んだんだぞ。どうして、兄貴のことを見てやんねぇんだよ。恋敵なんかもうこの世にいねぇだろ?兄貴はあんたの息子になりたいと思ってんだぞ!伸ばされた手を払いのけ続けて楽しいのか!?」


母の目には涙がにじんでいた。
母だって、わかっているのだ。血のつながらない息子がどれほどの献身を見せてくれているか。

しかし、母のプライドはこんなことでは折れなかった。
折れるわけにもいかないのは、母の性格上わかっている。それが悲しい。

母は小柄な背を怒りで丸め、さらに俺を強い瞳で睨みつける。
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