強引社長の不器用な溺愛
「絹、どういうことだ。お父さんは何も聞いてないぞ」


ゆらりとパーテーションの中に入ってきた絹の親父さんは、挨拶どころではないようだ。じりじりと俺と篠井の方に詰め寄ってくる。
篠井が慌てた声を出す。


「なんで来たの?仕事は?」


「仕事どころじゃねぇだろうが!こちらの奥様にご連絡をもらって、すっ飛んできたぞ!婚約ってのはどういうことだ!?」


親父さんが吼える。

ああ、もう俺も含めてだけど、みんな声でかすぎ。
絶対、社員全員が応接に向かって耳をすませているに違いない。


「正月に来た時は何も言ってなかっただろう!?なんでいきなり、勤め先の社長と婚約してんだ、おまえはぁ!」


「ちょっと、お父さん落ち着いて!」


「おまえはうちの旅館を継ぐんじゃなかったのかぁ!?そういうつもりで俺は東京の大学まで行かせてやったんだぞ!」


「そんな小学生の頃の夢を持ち出さないでよ」


篠井ひとりが声をひそめても、もう何にも意味をなさない怒鳴り声。
助長するように脇から母が言う。


「東弥!こちらのお父さんを前に同じことを言ってごらんなさい!絹さんと婚約してるって!言えないでしょう!?ほら、嘘なんかついて!」


「嘘だと!?絹、きちんと本当のことを言え!!」


篠井が口を開こうとして迷う。
こいつは、自分にとってじゃなく、俺と兄貴のことを思って答えを探している。

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