蕩けるくらいに抱き締めて(続き完結)
蘇芳先生は、薫子の事を忘れる為に、車をとばした。

ただ運転に集中して、何も考えないようにしていた。

…間もなくして着いたマンションの駐車場。ゆっくりと車を止め、車から降りると、マンションの上を見上げる。

…いつもは点いていない自分の部屋の明かり。

それは、雪愛が、あの部屋にいるとう証。

蘇芳先生は、雪愛に会いたい一心で、部屋へと急いだ。

鍵を開けると、その音に気付いたのか、奥から、パタパタと、スリッパの音が聞こえてきた。

「蘇芳先生、お帰りなさい」

エプロン姿の雪愛が、満面の笑みで出迎えてくれた。

…ただそれだけで、蘇芳先生の心は救われ、幸せな気持ちになった。

「・・・ただいま」

目の前にやってきた雪愛を、蘇芳先生は抱き寄せた。

「…どうしたんですか?」

雪愛は、目を瞬かせ、蘇芳先生を見上げる。

蘇芳先生の不安や心配事など、露ほども知らない雪愛。そんな雪愛のこの可愛らしい表情を、薫子に奪われないように、絶対守ると誓うように、蘇芳先生は、雪愛を、ギュッと抱きしめた。

「寂しかったんですか?」

やっぱり的外れな質問をする雪愛。でも、蘇芳先生は。

「あぁ・・・寂しかった。雪愛に、会いたかった」

そう耳元で囁けば・・・雪愛は、その寂しさも一緒に小さな体で、包み込むように、蘇芳先生を抱きしめた。
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