何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
“お前が欲しい”


その言葉が分からないほど私は子供ではない。
でも、答えることが出来ない。
口は解放されて自由な状態なのに言葉が出てこないんだ。


私は拓哉さんの婚約者で……。
遥斗とは偽装恋人で……。


遥斗と体の関係を持つ訳にはいかない。
駄目だって分かっている。
でも、私も遥斗が欲しい。


私の全部で遥斗を支えたい。
遥斗には笑顔でいて欲しい。


でも、拓哉さんを裏切る真似もしたくない。


ずっと一緒にいるって約束したのに。
1度でも彼を裏切るなんて……。



「私……」



整理が出来ずに何て言おうか迷っていれば、遥斗は私の肩から手を離しゆっくりと立ち上がった。



「遥斗……?」

「……お前が俺と同じ気持ちなら……寝室へ来てくれ」

「え……?」

「無理やり奪おうなんて思ってねぇよ。
嫌ならここにいればいい……じゃあな」



遥斗は私に笑顔を浮かべて歩いて行ってしまう。
もうこの場に彼はいないのに、さっきの遥斗の顔が頭から離れなかった。


口角を無理やり引き上げただけの哀しそうな笑顔。
遥斗には似合わない寂しそうな笑顔だった。




「そんな顔……しないでよ……」



震えた小さな声がリビングへと落とされた。
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