何でも屋と偽りのお姫様~真実の愛を教えて~
ジャーと、水の音がキッチンを支配する。



「……」



リビングを片付ける為に両手はいそいそと動いている。
でも頭は止まったままだった。


洗い物をしながら、これからどうしようかを考えてみても何も浮かばない。


“自由に生きる”


そう決めたは良いけど……。
それが拓哉さんと別れる事とはまた別の話だ。


私は拓哉さんを守ると決めたんだ。
彼の隣からいなくなる訳にはいかない。


だけど柊家の言いなりになるのはもう止める。
これからは自分の意思で彼の傍に……。


そう考えた時、私の両手はピタリと止まった。
自分の意思で拓哉さんの傍に……?


その言葉に私は何か疑問を抱いた。
拓哉さんの傍にいたいけど……それは自分の意思?


拓哉さんと前にした約束が、私を縛っている?
ううん、そんな訳ない。
私は拓哉さんの事を……。


“好き”


……その言葉が言えなかった。


だって、パーティーの時だって……。
拓哉さんが女の子たちに囲まれても私は不思議と哀しくはなかった。


前までは胸が苦しくなって辛かった。
なのに何故あの時は……。



『梓沙!』



目を閉じて考えていれば直ぐにある人の顔が浮かぶ。



「遥斗……?」



それはキラキラとした顔で笑みを浮かべる遥斗の顔だった。
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