One more kiss
思わず気圧されて返答する。


「…私が言いたいのはそれだけ」


そこでふっ、という微笑みを挟み、いつもの陽気で明るい表情に戻ったマコトさんは、今度こそドアを開け放った。


「ヨシ。それじゃ、頑張って行ってらっしゃい!」


そして力強くお見送りをしてくれる。


「はい。ありがとうございます。行って来ます」


私も精一杯気合いを入れて返答し、「Mocha」を後にした。


……何だかびっくりしちゃったな。


オーディション会場への、約20分の道のりを辿りながら考える。


まさかマコトさんにあんな事を言われるなんて。


悪い意味では、なかったよね。


『あともう一歩の所まで来ているのだから、怖がらずに外界に飛び出せ』っていう事を言って下さっている訳だし。


それとも、社交辞令なのかな。


私がウジウジグズグズ思い悩んでいるのがヒシヒシと伝わって来て、いい加減うっとうしかったから何とか発破をかけようと、ああいう言い方をして下さったのかな。


でも、たとえそうだったとしても。


心はだいぶ、軽やかに、晴れやかになって来ていた。


せっかくマコトさんが勇気付けてくれたんだもの。


その心意気を無駄にしない為にも、遠い先の未来の事はとりあえず置いておいて、今は目の前の大仕事に集中することにしよう。


そう自分自身に言い聞かせつつ、私は力強い足取りで、前へ前へと歩を進めた。
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