One more kiss
「以上の番号の方はこのままお残り下さい」
ああ…。
「他の方はお疲れ様でした。また別の機会にお会いいたしましょう」
せっかくモチベーションを上げたというのに…。
鏡張りの部屋の中で、グレーのスーツ姿の女性が無慈悲に言い放ったその言葉に、私はガックリと肩を落とした。
あっけなく終わりを迎えてしまったな…。
「信じられなーい。まさか私が残れるなんてー」
「良かったわね、愛莉」
今日初めて見た、どこかの事務所のモデルとそのマネージャーらしき女性の会話が、室内に沸き起こった歓声の中でも一際大きく響き渡り、否応なしに耳に届いた。
それから逃れるように急いで背を向け、私と同じく「他の方」通告を受けた仲間達と、ゾロゾロと連れ立って会場を出る。
「やっぱダメだったかー」
「ま、いいや。来週のオーディションにかけようっと」
「ここしばらく甘いもの絶ちしてたけど、今日は久々に食べちゃおうかな」
「あ、私も!確かこの近くにチーズケーキが美味しいお店があったよね」
控え室へと向かう道すがら、皆それぞれ嘆いたり、自分自身を奮い立たせるように前向きな発言をしたりして、なかなかの賑やかさだったけれど、私はひたすら無言で歩を進めた。
その状態のまま控え室にたどり着き、帰り支度を済ませる。
「お先に失礼します…」
近くに居る人だけに聞こえる音量でそう呟きつつ部屋を出た。