One more kiss
「あ、お疲れ様」


エレベーターホールに差し掛かった所で、先にそこに佇んでいた二人組に声をかけられた。


それぞれ別の事務所のモデルで、過去に開催されたファッションイベントで何度か一緒に仕事をした事がある。


さほど親しい間柄ではないけれど、同じ時期にモデルデビューしたし、年齢も近いので、このように顔を合わせれば挨拶はきちんとするし、ちょっとした世間話は交わすくらいの比較的良好な関係性だ。


だけどライバル意識もしっかりと持っている事は、お互いに肌で感じている。


…彼女達も、今回はダメだったんだな。


「お疲れ様です」


立ち止まり、二人に向けて挨拶を返した。


「今回はお互い残念だったねー」

「そうですね…」

「ここ来た時に、麻耶ちゃんの姿を見つけたから話しかけようかと思ったんだけど、『時間前ですが全員揃ったから』ってことでさっさか審査が始まっちゃったじゃない?」

「それでその最中は慌ただしいわピリピリしてるわで、とてもじゃないけど私語ができる雰囲気じゃなかったよね。だから挨拶が遅れちゃったんだ。ごめんね」

「いえ、そんな」

「せめて下まで一緒に行こう」

「あ。でも私、階段を使おうと思ってて…」

「あ、そうなんだ」

「じゃあ私もそうしようかな」

「そうね。4階だけど、ただ下るだけだもんね」
< 21 / 35 >

この作品をシェア

pagetop