恋色シンフォニー

布団をたたみ、和室を出て、ヴァイオリンの音がする部屋に近づく。
防音室なんだろう、くぐもった音がする。
音は、規則的に上昇と下降を繰り返す。
CDの曲ではない。
人が弾いている音階練習だ。
思い当たる人といえば、ひとりしかいない。

やっぱり、ここは、三神くんちだ。

防音室の前の廊下にペタリと座った。

はあ〜……
なんてことを……
めっちゃ恥ずかし……穴があったら入りたい……

それにしても。
練習とはいえ、上手いなあ……。
基礎練習でも、ずっと聴いていたくなる。

こうして腕を磨いて、あんな演奏するんだな……
小さな頃から、積み上げてきたんだろう。



音が止んだ。
慌てて正座する。

しばらくして、ドアが開き、三神くんが出てきた。

迷惑かけたら、潔く謝るのが一番。

「申し訳ありませんっ」

土下座。
人生初の土下座だ。
頭の上から降ってくる言葉を待つ。

「……あー、おはよう」
「おはようございます。このたびは、誠に申し訳ございませんでしたっ」
「……とりあえず、顔あげなよ」
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