恋色シンフォニー
鎖骨のあたりを指し、

「キスマークが……」

「ぶはっ」

「ちょっと綾乃ちゃん、大丈夫⁉︎」

ジンジャーエールを吹いた私に、玲子さんがおしぼりを渡してくれた。

「あの地味な黒メガネが……」

「いいじゃないの、優しそうで」
「そうですよ〜。穏やかで、紳士ですし。綾乃さんは、なんで三神さんを毛嫌いするんですか? ライバルだからですか?」
「同期の出世頭2人だからね〜」
玲子さんが持ち上げてくれる。恐縮です。

「そうですよね! 綾乃さんもすごいですけど、三神さんも地味に見えて、すごいんじゃないかと、最近分かってきました!」
「ほうほう」
「だって、鈴木さんが産休で抜けた後、販促部を社員ひとりで回してるんですよ!」
「派遣さんとパートさんに仕事振ってるからじゃない」
「それでも、その仕事の振り方とか、会議前の段取り力とか、仕切りのうまさとか、すごいです!」

素直さがまぶしいわ、渚ちゃん。

「ああいう男を腹黒いっていうのよ!」
「ええー見えませんー」

それはあなたがまだ24歳だからよ。
私もその頃は、仕事ができる人をただ尊敬してたわ。

「で、綾乃ちゃんはどうなのよ。そろそろ次」

「……しばらく、いいです」

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