恋の指導は業務のあとに

帰っても、二人が上の部屋で仲良く過ごしてることを考えて切なくなる。

けれど、ここで見せつけられるよりは、数倍いい。

思いっきり泣けるのだから。


「ったく、面倒だな。来い」

「え、ちょっと、待って」


靴を履いたまま担ぐように抱き上げられて、焦る。

ばたばた暴れて下ろされたら、床を汚してしまうではないか。


「あの、羽生さん!」

「百聞は一見に如かず、だ。よく見ろ」


リビングへのドアが開けられて、出汁の香りが漂ってくる。

キッチンではエプロンを着た柳田さんがコンロの火を調節していた。

火を見ながら「彼女、ちゃんと捕まえられた?」と言ってこちらを向いた柳田さんの目が大きく開かれて、腰に手を当ててため息を吐いた。


「羽生君、その様子だと全然説明してないでしょう。ほんとに困った人だわ」


柳田さんは、ちょっとごめんね、と言って私の靴を脱がせてくれる。

ちょうどそのとき、ダイニングの向こうにある脱衣場の戸がスラッと開いた。


「なんだ?その子、健二の彼女か?何で、担いでるんだ」

「逃げられないように、だ」

「喧嘩したのか」


スウェット姿で髪を拭いてるのは、お風呂上がりの男の人で、羽生さんによく似ていて・・・。


「あの、何がどうなってるんですか?」

「柳田は、兄貴の彼女。で、兄貴はそこで頭を拭いてるヤツ。つい先日、海外勤務から戻ってきたんだ」

「そうなの。私たち、もうすぐ結婚するの。ね?」

「何が何だかわからんが、健二の兄の雄介です。よろしく」

「・・・あ、私は、池垣若葉です」


担がれたまま、不格好ながらも挨拶をする。

頭の中が整理できなくて、ひたすら柳田さんと雄介さんを交互に見る。

二人が、カップル?しかも、結婚間近?

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