恋の指導は業務のあとに
「三人で一緒にご飯を食べようと思っていたけれど、羽生君は無理そうね?」
「要らない。じゃ、ちょっと行ってくるから」
どこに?の疑問は、柳田さんに「いってらっしゃい」と靴を渡されて、訊くのを阻まれた。
ゆらゆらと体が揺れて、そっと下ろされたのは、3階の私の部屋の前だ。
「清水と一緒にいるのを見て、とられたかと焦った。走っていったあんたを追いかけようとする清水を制して、必死で追った。結構足が速いのな」
「あ・・・高校時代は、陸上の短距離選手だったので」
部屋の前の外廊下、玄関ドアについた羽生さんの腕に阻まれて、動くに動けない私は人形のように固まる。
今何が起こっているのだろうか。
羽生さんは何が言いたいのだろうか。
心臓が早鐘のように打っていて、目の前にあるネクタイの柄をひたすら見つめることしかできない。
「上を向け。俺を見ろ」
「え?」
すっと、あごに添えられた手で上を向かされて、玄関灯に照らされた羽生さんのシルエットが近づいてきた。
「はにゅう・・・ん」
唇が柔らかいものに包まれて、舌が侵入してきた。
口の中を優しくなぶられて、心地よくて頭の中が真っ白になる。
ぞくぞくと体が震えてしまい、持っていた靴をポトンと落として、羽生さんの服をぎゅっと掴んだ。
離れていく唇が濡れていて、艶っぽい。
これが、大人のキス・・・。
ぼーっとしていると、私のバッグから鍵を探り当てた羽生さんが玄関のドアを開けた。
「言っておくが、さっきのキスは2回目だからな」
「え?2回目って、どういうことですか」
「覚えてないだけだ」