恋の指導は業務のあとに
「あなたは本社勤務?」
「はい、そうですけど。あなたは?」
「やっぱりそうだ。私も本社勤務なの。ね、一緒に食べない?私、加納琴美。よろしくね」
「あ、私は池垣若葉です」
「わあ、若葉っていうの?素敵な名前だね。ね、若葉って呼んでいい?私のことは琴美って呼んでいいから」
琴美は人懐っこい笑顔を見せてくれて、ずっと緊張しっぱなしだった私の気持ちが少しほぐれた。
そんな気持ちを話すと、彼女も心細かったそうで本社勤務の女子社員をずっと探していたのだと言う。
互いの出身地のことや大学と就職活動のことを話しながら食べていると、瞬く間に会食の時間が終わってしまった。
午後は工場勤務と本社勤務と別々にオリエンテーションを受けて、配属先が書かれた辞令を受け取った。
私は商品部営業課で、琴美は総務部秘書課だ。
初対面で琴美に抱いたイメージ通りで、思わず笑ってしまう。
「じゃ、今日はこれで終了です。それぞれの配属先の上司が皆さんを迎えにきていますので、指示に従ってください」
いつか食事に行こうねって琴美と約束して席を立つ。
本社勤務の男子8人と女子5人、一斉にガタガタと席を立って自分の上司を探した。
「池垣さ~ん、辻田く~ん」
私の名前を呼びながらキョロキョロしてる人を発見して近付いていく。
良かった、営業は女性上司なんだ。
私の隣に立った辻田くんは、ぽっちゃり体系の癒し系男子で、オリエンテーションでも講師役の社員にいじられて笑いを誘っていた人だ。
そっか、この人も営業なんだ。
異性だけれど、同期が同じ課にいると思うと心強く感じる。