好きだと言って。[短篇]






学校帰り。
向うのは自分の家ではなく、哲平のマンション。


電話がきてないのに、自分から哲平のマンションに行くのなんて初めてかもしれない。違う意味でドキドキする心臓を落ち着かせながら、いつもの家路とは少し違う道を歩いた。




「…なんて言われるかな?」



"やっと消えてくれるんだ"
"いなくなって清々する。"


ううん。
きっと何も言わず、無表情。



これだけ鮮明に哲平の拒否の顔色が浮かぶなんて、なんだか自分でも寂しくなっちゃう。だってね、哲平が「嫌だ」なんて言ってくれるわけ、ないもの。




カツンカツン…

ローファーの進む速度が遅くなる。
哲平のマンションが見えて来た瞬間、足がすくむ。





「…え」





時刻はまだ4時。
太陽はまだ沈んでいない。




「…哲平?」




マンションの入り口には哲平の姿。


私の足は完全にストップ。
カタカタとその足が震えた。




茶色のロングの髪。少し高いハイヒール。くるん、と上がった睫毛。



哲平の肩を支えるその女の人。
少し顔をしかめながらも優しく哲平に笑いかけていた。






ねぇ、お酒飲んだの?
歩けないくらい、その人と飲んだの?




「っ…」


連絡が少なかったのも、全部全部その人と一緒にいたから?




< 8 / 21 >

この作品をシェア

pagetop