好きだと言って。[短篇]
学校帰り。
向うのは自分の家ではなく、哲平のマンション。
電話がきてないのに、自分から哲平のマンションに行くのなんて初めてかもしれない。違う意味でドキドキする心臓を落ち着かせながら、いつもの家路とは少し違う道を歩いた。
「…なんて言われるかな?」
"やっと消えてくれるんだ"
"いなくなって清々する。"
ううん。
きっと何も言わず、無表情。
これだけ鮮明に哲平の拒否の顔色が浮かぶなんて、なんだか自分でも寂しくなっちゃう。だってね、哲平が「嫌だ」なんて言ってくれるわけ、ないもの。
カツンカツン…
ローファーの進む速度が遅くなる。
哲平のマンションが見えて来た瞬間、足がすくむ。
「…え」
時刻はまだ4時。
太陽はまだ沈んでいない。
「…哲平?」
マンションの入り口には哲平の姿。
私の足は完全にストップ。
カタカタとその足が震えた。
茶色のロングの髪。少し高いハイヒール。くるん、と上がった睫毛。
哲平の肩を支えるその女の人。
少し顔をしかめながらも優しく哲平に笑いかけていた。
ねぇ、お酒飲んだの?
歩けないくらい、その人と飲んだの?
「っ…」
連絡が少なかったのも、全部全部その人と一緒にいたから?