好きだと言って。[短篇]
ぽたり、と地面に水滴が落ちた。
「…あら。」
そんな私に気が付いたのは、哲平ではなくその肩を支える女の人だった。にこり、と笑い哲平に何か話しかける。
ゆっくりと上がる哲平の顔。
「あ、けみ?」
そして聞こえなかったど
小さくそう呟いたような気がしたんだ。
流れる涙は止まらなくて、
それでも足が動かなくて、
女の人はビックリした顔で私を見つめていた。
「…も、いいや。」
私はずずっと一回涙を拭うと、唖然とする哲平のすぐ前まで重い足を動かした。
そっか…
そうだよね。
もう、終わりにしなくちゃ。
「朱実ちゃん?私、哲平の…」
「はじめまして。」
私はニコリとその女の人に笑いかけ、視線を哲平に向けた。
ほんのり赤く染まった哲平の頬。お酒で足がフラフラな哲平の前にかがみこみ、視線を合わせる。
「哲平…バイバイ。」
「は!?…おい…」
ペコリと女の人に頭を下げ、ポケットから鍵を出しそれを渡すと私は猛スピードでダッシュした。
最後までウザイ奴、
と思われるの嫌で、
諦めのいい女、を演じたんだ。
後ろで、何か声が聞こえたけれど、振り返る余裕なんて私にはなかった。