ビタージャムメモリ
「眞下さんは、この技術を医療に応用する発想を、どこから?」
「特に僕のアイデアというわけではないんですよ、当時の上司と、あれこれ話しているうちに、という感じで」
向かいに座った広報部長にビールを注ぎながら、先生が答える。
12月も半ばという頃になって、ようやく打ち上げが実現した。
相変わらず先生は忙しく、全国各地を飛び回っているらしい。
「柏、これそっちでも回してくれ、元気出るぞ」
先生が私の背中側から腕を伸ばして、柏さんに手紙を渡した。
発表会の発案者ということで、宴会の仕切りを野田さんに任せ、部長が私を先生の隣に座らせてくれたのだ。
右手に先生、左手に柏さんという状況なんだけど、先生と柏さんは仲がいいので、その会話を遮っているような気にたびたびなってしまう。
「あー、ここんとこ原価管理とバトル中なんで、こういうの救われますね、泣いちゃう、頑張ろ」
「お前、この会社入った理由、なんだった?」
「言ってませんでした? カートエンジンの開発ですよ、小さい頃からやってたんで、もう刷り込みのように、大きくなったらここに入るって」
「ずいぶん遠いところに来たな」
「そうなんですよねー、まあ今そっちに移してやるって言われても、行かないと思いますが」
充実した顔でうんうんとうなずく柏さんを、先生は頬杖をついて、微笑んで眺めていた。
私はふと気になって尋ねてみた。
「眞下さんは、動機って、なんでした?」
ん? と先生の目がこちらを見る。
「僕は…」
「あれ、今日は先生って呼ばないんですか、香野さん」
ひえっ!
柏さんの無邪気な突っ込みに、私は飛び上がるほど動揺した。
「いえっ、あれは、その、一回間違えただけで」
「え、けっこう呼んでるの聞いてるよね?」
「えっ…!」
なあ、と水を向けられた杉浦さんたちが、みんなうなずいた。
え、え、嘘!
本人の前では眞下さんて呼ぶように気をつけてたはずなんだけど。
ちょこちょこ出てしまってたんだろうか。