ビタージャムメモリ
「歳考えろって話よねえ、聞いたところだと、37歳だって」
「巧先生より上だ…」
「あれだけ綺麗な外見の子なら、手を出してみたくなる気持ちも、わからなくはないけどさ」
「だからって実際、しないよねえ」
しない、とふたりで深々とうなずき合ってしまう。
どうやら歩くんは、店長さんに殴られながらも、一方的に迫られただけという言い訳をいっさいしなかったらしい。
彼女さんをかばったのか、言ったところで何も変わらないと思っただけなのかは、わからないけど。
歩くんのそんな姿勢は、私をちょっと誇らしい気持ちにさせた。
…身内か、私。
「だけどまあ、あの子が巧先生の甥って」
「言われてみたら似てるの、これが」
「あたし、ヤマシタの顔、思い出せないというか知らないのよー」
私は先日の発表会を取り上げているサイトを検索して、登壇中の先生の写真を早絵に見せた。
あらま、と早絵が目を丸くする。
「いい男」
「最初からそう言ってるんだけど」
「だって弓生の相手って会ったことないから、方向性の見当がつかなかったんだもん。まさかこんな普通にいい男だとは」
「普通にいい男だよ、先生は」
「どうするの、これから。まずは歩くんとの誤解を解かないことには始まらないんでしょ、なんでそうことごとくマイナススタートなの?」
私に訊かれても。
そもそも、どうするも何もないわけで。
別に、どうしたいという思いがあるわけでもなくて…。
帰り道、地下鉄の早絵と別れて駅を目指すと、駅前の百貨店のショーウインドウの、シャッターが閉まるところに出くわした。
ブランドものの冬服が、レディースとメンズ並んで飾られている。
ゆっくりと下りてくるシャッターをぼんやりと眺めながら、私はふと、心の中である決意が固まっていくのを感じた。
* * *
──ぼくは今、自分だけの力では生活の全部をできませんが、勉強はできるし、成績もいいです。
いつか眞下さんみたいに、人を助ける研究をして、これまで僕が助けてもらった分以上に、いろんな人に返したい。
そう思いました──
「…嬉しいね、こういうのは、本当に」
「またこういったものをいただき次第、お送りしますね」
「うん」
発表会に親子で参加してくれた中学一年生の男の子から、会社宛に手紙が届いたのだ。
胸を打つ内容だったので、社内回覧するより早いと思い、中身だけコピーしてこの打ち上げの場に持ってきた。
先生は時間をかけて、何度もそれを読んでは、口元を優しく緩ませている。