ビタージャムメモリ
じゃあ、いきなり私からあんなことを言われて、しかもその私が定例会に参加することになって、なんだこのタイミングと思っているのは、むしろ先生の方だ。

うわあ!



「あのっ…」

「香野さんに来てもらえてよかった、これは僕からもお願いしていたことなので」



そう穏やかに微笑まれて、謝罪の言葉を飲み込んでしまった。

…私で、よかった。

面と向かって聞くと、思っていた以上に心が揺さぶられる。



「どうして、私を?」

「発表会の時、お客様をケアする専門のスタッフがいたでしょう、彼らを手配したのは誰か気になって、聞いたんだ」

「あ…」



私だ。

当初の予定にはなかったんだけど、代理店さんにお願いし、探してもらったのだ。

会場に来るお客様は、身体のどこかに不便を感じている方が大半だから。



「代理店の方が、香野さんが追加予算を取ってまで、そういう体制を整えたことを教えてくれて」

「そんな、たいそうなことじゃ」

「たいそうかどうかは関係ないんだ。ただ僕たちの商品は、そういう人に任せたいと思った」



街灯の明かりの下、先生は少し目を伏せるようにして微笑んだ。

落ち着きのある、静かな声と、白い息。

眼鏡がほどよく緩和している、端整な顔。



「あの…、まったく違う話をしてもいいですか」

「うん?」

「こ、この間のことなんですが」



思いきって切り出した。

だってきっと、今しかない。



「ええと、いきなり失礼しました、しかもどうにも半端で…」



半端で、というのは、なんと私はあの時、「先生のこと」までしか言えなかったからだ。

往来から突然なだれ込んできた酔っぱらいの集団の騒々しさに押され、とても先を続ける雰囲気じゃなくなり、逃げるように帰ってきたのだった。

だからよけい、その後先生に会うのがいたたまれなかったのだ。

我ながら中途半端で。



「その、私がお伝えしたかったのは、あの、もうおわかりだとは思うんですけど」


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