ビタージャムメモリ
「豪勢だな」
「私、再婚するの」
言いながら、カードサイズの紙片を、ドンと押しつけるようにして渡した。
先生はそれを手に取ると、じっと眺める。
「それが相手。巧なら、どんな話かわかるでしょ」
「…とりあえず、今日は帰ってくれ」
「わかったわ、またね、歩」
返事をしない歩くんを一瞥すると、お姉さんはまたヒールの音をさせて戻っていった。
車が見えなくなるまで、私たちは身動きもしなかった。
「…クソ女」
「もう少しまともだった時期もあったんだ」
歩くんが先生から顔を離し、袖で目をこする。
「何もらったの」
「名刺だ」
「誰の?」
「まあ、話とやらを聞いてからだ」
「あんな女の話なんて聞く必要ねーよ」
「そう言うな」
「巧兄が来てくれてよかった」
よほどの緊張を強いられていたんだろう、消え入りそうな声だ。
本当に、先生が戻ってきてくれてよかった。
…そういえば、なんで戻ってきたんだろう。
たぶん歩くんも今、同じことを考えている。
私たちの間にはしばし沈黙が下り、やがて歩くんが口を開いた。
「俺、会場戻るわ、荷物置いてるし」
「帰るなら、待ってるぞ」