ビタージャムメモリ
先生の提案に、小馬鹿にするような眼差しを返し、はあ、と大きな息をつく。

そして首からマフラーを外すと、なぜか私に渡し。



「巧兄は、それよりやること、あんだろ」



すれ違いざまに私の頭をくしゃっとなでて、教会の方へ走っていった。

取り残された私と先生は、少しの距離を置いて対峙していた。

受け取ってしまったマフラーを握りしめて、言葉を探す。

えーと。



「あの…これ」



結局、返すという選択肢しか見つからず差し出すと、先生がはっとしたように、勢いよくそれを取り上げた。

私は空っぽの手を浮かせたまま目を丸くした。



「…先生?」

「あ、ごめん」



珍しい、先生の、焦った声。



「…歩にやったとか、そういうんじゃないから」

「えっ、いえ大丈夫です、それはちゃんと聞きました、というかあげていただいても別に、私としては、まったく」



その、と我ながら要領を得ない。



「ええと、ところで教会に戻らなくて大丈夫ですか」

「え?」

「忘れ物か何かじゃ…」



それで引き返してきたの…では。

ないらしい。

先生がぽかんとしているのを見るに、私はどうやら的外れなことを言ったみたいだった。



「あの、じゃあ、どうして」



ふいに先生が、何かに気づいたようにこちらに手を伸ばす。

その指が、目元の前髪をよけた。


──あ!

しまった!

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