ビタージャムメモリ
酷だと思った。

まだ17歳で、高校生で。

そんな大きなことを自分で決められる時じゃない。


だけど、周りの決めたことにただ従える年齢でもない。

ましてや誰もが認める才能があって、それを買われていて。

いわゆる“普通”とは、少し違う世界に彼は生きている。


また視線を落としてしまった歩くんの腕を、気持ちを切り替えるみたいに先生が優しく叩いた。



「帰るか」



だけど歩くんは、じっと床を見つめたまま動かない。



「…歩」

「帰んねーよ」



固い声に、先生が眉をひそめた。



「帰らずに、どうするつもりだ」

「巧兄に関係ねーだろ」

「またふらふら外泊するつもりか」

「それだからガキだって言うんだろ、ガキだよ、だから今は、巧兄のいる家には帰りたくない」



反抗心を剥き出しにして先生をにらむ。

それを受けて、先生の目つきが厳しくなった。



「で? 金は持たせてないはずだが、どこに泊まる気だ」

「別に、泊めてくれる相手なんかいくらでもいるよ」

「そうやってまた揉め事を増やす気か、懲りないな」



察するに、歩くんの泊まり先というのは、女の人なんだろう。

つい先月にあんな目に遭ったばかりなだけに、先生の指摘に、歩くんもぐっと言葉に詰まった。

だけどどうしても家に帰るのは嫌らしく、唇を噛む。



「…じゃー弓生んち行く」

「えっ!?」



思わず大声を出してしまった。

うち!?

さすがの先生も目を丸くして、声を荒げる。

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