ビタージャムメモリ

「…自分が挫折したから、躍起になってんだろ」

「歩…」



言った歩くんの方が、傷ついた顔をしてる。

止めなきゃと思ったんだけど、できなかった。



「そういうの、いい迷惑だ」

「歩、俺は、そんなつもりは」

「じゃー自覚しろよ、勝手な夢を俺に押しつけんな!」



部屋を飛び出し、叩きつけるようにドアを閉める。

私は引っ張られて転びそうになりながらも、振り返った。

ドアが閉ざされる直前、先生の表情が見えた。

愕然と立ち尽くして、言葉をなくしていた。



「歩くん、ねえ」



歩くんは足取りを緩めることもなく、私の腕をわしづかみにしたまま、廊下を無言で進む。

地上に出たところでようやく立ち止まり、手を離してくれた。

コートを着る間もなく胸に抱え、なかば走りながらついてきていた私は、肩で息をしていた。

歩くんも、弾む息を暗い路地に吐き出している。



「歩くん…」

「どーしよ…」



私に背中を向けたまま、歩くんが震える声を出した。



「俺、たぶん、言っちゃいけないこと言った…」



今にも泣きそうな、か細い響きだった。





「どうしたの?」

「あの、やっぱ…」



私の部屋の玄関前で、歩くんはためらいを見せた。

今さら何を言ってるんだか。

ここで野放しにしたりしたら、それこそ先生に会わす顔がない。



「責任持ってお預かりしますって、後で連絡入れておくから。布団もあるし、気にしないで上がって」

「…ごめんな」



そんな殊勝にされると、調子が狂ってしまう。

歩くんは、先生に投げつけた言葉をよほど悔いているらしく、ここに来るまで、ひとつも口をきかなかった。

電車の中も、歩いている間も、じっと黙り込んで、何か考えてた。

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