ビタージャムメモリ
「すげー、弓生っぽい」
「どういう意味、それ」
廊下と部屋を隔てるドアを開け、電気をつけると、歩くんが感心したように室内を見回した。
6畳の部屋に、ベッドと小さなテーブルとソファ。
壁際にはテレビとテレビボードがあって、小物を置いている。
明るい白木の床に合わせて、家具もカーテンも白だ。
別に、とりたてて特徴も個性もない部屋だと自分では思ってたんだけど、やっぱり何か、あるんだろうか。
「ごちゃごちゃしてるわけじゃないのに、殺風景でもなくて、絶対男の部屋じゃねーよなって思うけど、甘すぎない感じ」
「…いろんな部屋を見てるんだね」
「インテリアが真っ黒でベッドがヒョウ柄とか、入った瞬間逃げ出したくなるよな。なんであれでくつろげるんだろ」
知らないよ、とふたり分のコートをクローゼットにしまい、念のため歩くんのバイオリンもその中に入れておくことにした。
そういえば、今気がついた。
「歩くんの部屋って、防音?」
「そうだよ、ドア重かったろ。窓も二重だし」
二回入ったことがあるものの、そのどちらもがあまりに特殊な状況で、慌ただしいどころの騒ぎじゃなかっただけに、覚えてない。
言われてみれば、変わったドアだなと思ったような気もする。
廊下にある簡易キッチンでお湯を沸かしながら、本やCDを立てているボードを物色している歩くんを眺めた。
少し、元気が戻ったようで、よかった。
「ごめんね、ここじゃ弾けないね」
「練習したくなったら、バイト先の部屋借りるし」
マグカップにたっぷりのミルクティをいれて出すと、サンキュ、と嬉しそうに受け取る。
私は、歩くんが背もたれにしているソファに腰かけた。
「…巧先生も、バイオリン、弾くの?」
さっきの、挫折とか夢って、そういう意味?
どうしても気になって聞くと、歩くんが驚いたように振り返る。
「え、そこから?」
「そこからって」
「俺にバイオリンを教えたのは、巧兄だぜ」
「そうなの!?」
全然知らなかった。
というか予想もしなかった。
歩くんの保護者であるからには、そういう世界に理解があるんだろうなとは思ってたけど…。
呆然とする私に、歩くんがあきれる。