ビタージャムメモリ
…そうなのか。

いなくなってしまうと思うと、さみしい。

やがて、覚えのある景色が見えてきた。

ゲストパスをもらった窓口だ。

でも…閉まってる。



「定時後のパスの返却はポストへと」

「預け入れたものについては…」

「何も書いてないね」



窓口にぺらっと張られた案内を読みながら、先生がため息をついた。



「ごめんね、ここの管理部門は、役所だから」

「いえ、私が時間に気をつけているべきでした…」



呆然と答える。

どうしよう。



「事務室のほうへ行ってみよう。誰か残ってるかもしれない」

「あの、私、自分で行きますから。先生、お打ち合わせでしょう」

「いいよ、ちょっとした仕様の確認だけなんだ。柏に任せる」



…いいの?

見上げると、ぷっと吹き出された。



「こんな心細そうな迷子を見捨てたら、夢見が悪いよ」



ほんの一瞬、先生の手が、私の頭に触れた。

ぽんと軽く、言い聞かせるみたいに。


その場を動けなくなってしまった私に気づいていないのか、わざと無視しているのか。

先生は振り返りもせず、さっさと廊下を歩いていってしまった。





「ご面倒をおかけしました、本当に…」

「いや、予想外にてこずって、ごめんね。融通の利かない事業所で」



最終的に携帯が手元に戻ってきたのは、30分ほども交渉した末のことだった。

事務所に人はいたものの、時刻を過ぎているならもう受け付けない、と門前払いを食わされかけ、そこをなんとかと泣きついてもなしのつぶて。

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