ビタージャムメモリ
「心配しなくても、やめるよ。幻滅されても悲しいし」
「しませんってば」
明らかに信用していない顔で、へえ、と笑う。
しません、ともっと主張したいけど、イコール"続けてください"と取られるのも恥ずかしくて、言えない。
言えないでしょって顔を、先生もしている。
悔しくなって、向こうのシャツを引っ張って、キスをした。
不意を突かれたのか、先生の肘が崩れ、身体が重なる。
「しませんから」
目を見て念を押してから、しがみついてまたキスをした。
眼鏡がないと、遠慮がいらない。
それは歯止めが利かないとも言えて、私は先生に対してこんなに積極的になったのは初めてというくらい、好き放題キスした。
勢いに押されていた感じのあった先生も、やがて私に合わせるように、返してくれるようになり。
ぎゅうっと頭を抱きしめてくれた時には、その重みと熱に、胸が熱くなって、思わず息が漏れた。
どのくらいそうしていたのか、名残を惜しむような甘いキスを最後に、先生が身体を離した。
じっと私を見下ろしたまま、心ここにあらずみたいな顔をしているので、もしかして見えていないのかと目の前で手を振ってみる。
瞬きをしたので、あっ動いた、と安心したら、先生はなぜか、胸ポケットから携帯を取り出した。
「歩?」
え、電話?
今?
なーに、という歩くんの声がする。
「今どこだ」
『電車乗るとこ』
「そうか。お前、あと一…いや、二時間は帰ってくるな」
『はっ?』
その反応に、心底共感した。
先生が私を見下ろしながら、なんだそれという文句を、うるさい、と一蹴する。
『まっすぐ帰れっつったの、そっちだろ、すっげー腹減ってんだけど。食ってこいってこと?』
「いや、それは我慢しろ」
『ふざけんな!』
「いいから帰ってくるな。絶対だぞ」