ビタージャムメモリ
一方的に通話を切って、携帯をぽいとテーブルに投げ。

呆気に取られている私に、思い出したように提案してくる。



「ベッドとここ、どっちがいい?」

「に、二択ですか」

「他の場所がいいならつきあうけど」

「場所の話じゃないです!」



どうしちゃったの先生。

幻滅されないとなったら、いきなりこれですか。

私はもしかしたら、咎めるような目つきになっていたのかもしれず、先生が苦笑して、私の前髪をかき上げるように額をなでた。



「ただの男だって言ったでしょ」

「男の人に失礼ですよ…」



こんな流れのわりに、先生の手つきは子供に対するそれみたいで、優しくて含みがなくて、甘えたくなる。

そうかな、と先生が首をかしげ、それから微笑んだ。



「じゃあ、弓生のことが好きな、ただの男」



一瞬で、涙が溢れた。

初めてだ。

先生の口から、好きって言葉をもらったの。

でも、先生はこのあたりに関しては、けっこういい加減なので、もしかしたらこれが初めてって意識もないかもしれない。

そう思ったのは、外れた。



「ごめんね、待たせて」



首を振る私に、そっとキスをくれる。

手で嗚咽を押さえ込んでいたので、唇が触れたのは指だった。

待ってないです。

ううん、待ってたけど、その間も幸せだったので、大丈夫です。


先生、困ってる。

でも涙が止まらない。


すみません、私、子供で、先生がそう口に出してくれるまでにどんな葛藤があったのか、想像もできません。

たぶん、すごく迷ったんじゃないかと思うんです。

私は、待っているのを隠せていなかったと思うので、それもプレッシャーだったんだと思うんです。

ごめんなさい、私のほうこそ。


私の手を取って、自分の首に回させると、先生はゆっくりと、安心させるように唇を寄せる。

耳に、首筋に、鎖骨に。

ブラウスのボタンが外されて、胸元にも優しいキスが降る。

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