ビタージャムメモリ
長い指が、身体をたどる。

この指が綺麗な文字を書くのを、私は知ってる。

ずっと前から。



「気になってたんだけど」

「は、はい」



突然、普通に話しかけられて、慌てた。



「学生の時、何を思ってあんなこと、したの?」

「え?」

「弓生ってああいうこと、言いそうにないのに。思い詰めた雰囲気だったから、心配してたんだよ、これでも」



少し考え、なんの話か理解した。

うわーっ!

よりによって今、その話!



「あのっ、忘れてください、あれは」

「いや無理でしょ、強烈に覚えてるよ、真面目そうな子が『私の初めての相…』」



きゃー!

先生の口をふさいで、続きを封じた。



「私だってわからなかったくせに!」

「だってあの時、名乗りもしなかったじゃない。何百人って学生がいたんだよ、いきなり来られても、名前なんてわからないよ」



えっ、名乗り忘れたの、私。

それは先生も、さぞ困惑しただろう。

ブラウスの前全開でする話かなと思いつつも、先生は興味深げに私の返事を待っている。

これはたぶん、答えを得るまで引かない。

うう…。



「あの、当時ですね、小さなオフィスでバイトをしていたんですが、そこの社長さんに、泊りがけの出張に同行するよう言われまして」

「え…」

「ちょっと、そういう方面でよくない噂のある方だったんで、まあ私も幼かったのもあって、だいぶ悩んだというか、追い詰められてしまって」



せめて先に、憧れの先生にもらってもらおうと思ったのだ。

今考えると、若いを通り越して幼稚と言いたい。

でも誰にも相談できなくて、私なりに考えて考えて、勇気を振り絞った結果だった。

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