ビタージャムメモリ

むき出しの肩に、ぬくもりが触れる。

柔らかい熱は、鎖骨をたどって頬に行きつく。

髪を優しくどけて、何度も落とされるキス。

名前を呼んでくれる声。


先生…。



「そろそろ起きたらどうよ、おふたりさん」



はっと覚醒した。

目に入るのは、ダークウッドで統一された、先生の部屋だ。

ベッドの上のすぐ横に、歩くんが座って、にやにやとこちらを見下ろしていた。


え?


視線をたどると、布団から出た私の脚。

抱きしめるように身体の前に回された腕…先生の。

どちらも裸。



「きゃ…きゃーっ!」

「いてっ」



身体を引いたはずみに、ガンと頭をぶつけた。



「あっ、ごめんなさい!」

「いや…」



先生も目を覚ましたらしく、ぶつかった顎を押さえながら、枕元を探っている。

寝起きのぼやけた声が、あれ? と呟いた。



「眼鏡なら、リビングにあったぜ」



声のするほうを見て、目を見開いた先生に、歩くんはさも楽しそうに、持っていた眼鏡を振ってみせる。



「あっちで始めちゃったんだ?」

「歩…」

「言われたとおり二時間待って帰ってきたのに、誰も出てこねーし、テーブルに食い物放置だし、ここのドアは怪しげに閉まってるし、教育に悪い家だよなあ」



状況を理解した先生が、言葉を失ってうなだれた。

顔を覆った手の向こうから、鍵つけよう、という呟きが聞こえる。



「来年から一人暮らししてやるって言ってんだからさ、それまでこういうの、待てなかったの? 意外と我慢利かねーのな、巧兄」

「わかったから、お前、一度出ていけ」

「あ、服着る? どーぞどーぞ」


< 221 / 223 >

この作品をシェア

pagetop