ビタージャムメモリ
部屋で戦利品を整理しながら、うう、と改めて途方に暮れた。

これからどうしよう。

発表会も終わってしまった今、先生と会う機会は激減するはずだ。

そんな中で、歩くんの話を持ち出すチャンスなんて、あるわけない。


きっと今日のことだって、さぞかし楽しそうな私の写真と一緒に報告が行って、誤解をより強固なものにするに違いない。

何やってるのよー、私…。

ふっくらしたカシミヤ混の、かわいいベージュのステンカラーコートを抱きしめながら、ベッドの上で丸まって、絶望した。


 * * *


「いい感じだねえ」

「香野さん、これもクリッピングお願いね」

「はい」



部長、野田さんと朝刊をチェックしながら、この間の技術発表に触れている記事をピックアップしていく。

発表会から土日を挟んで四日がたった。

通常、新聞は翌日の取り上げで終わるんだけど、そこから派生して、詳しい記事を書いてくれていたりするところもある。

月をまたげば今度は雑誌の誌面に、続々記事が載るはずだ。



「あとこれ、業界誌さんから原稿が届いたよ」

「すごい、早いですね」

「月2回発行だからね、最速の号に入れてくれたみたい」



会議室の机にあれこれ広げて回覧しながら、中身を確認する。

どの記事も好意的で、誤解のないようまとまっている。

先生のプレゼンが親切でわかりやすかったことの証明だ。


何度も内容を確認し、リハーサルでも聞いていたにもかかわらず、本番中に私は泣きそうになった。

淡々とした説明から、いかに先生たちが、人の助けになりたいという思いだけで、まっすぐに開発を続けてきたかが伝わってきたからだ。



「"普及して初めて道具は道具と呼べる"って考え方、いいですよねえ、俺あれにぐっと来ましたよ」

「"そのためには安価であることが必須"ってやつね、ああ言いきるのは、なかなかできないよね」



医療器具にとどまらず、高価であることが品質を保証しているという固定観念はどこにでもある。

その消費者心理に便乗して、単価を下げる努力をしない企業やブランドは多い。

でも先生たちは、ある程度安価であることが、道具を"安心して使いきる"ことにつながると考えた。

高額なメンテナンス費や、取り寄せるのに時間のかかる補修品、そんな不安がある限り、利用者は思いきり使うことにためらいを覚えてしまう。

そもそもそれでは、金銭にゆとりのある人の手にしか渡らない。

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