ビタージャムメモリ
『私たちがこのデバイスを採用したのは、安価だからです。単価を無視すれば、もっと手軽なものを選ぶこともできました、たとえば他社が使っているような』
先生の示した競合他社との価格、性能比較のグラフはわかりやすく、自分たちばかりを持ち上げるものでもなく、実にフェアに、正直に分析されていた。
一般のお客様をお呼びした第二部では、説明はよりわかりやすい言葉に置き換えられて、会場の全員を釘付けにした。
『ただこのデバイスは研究が進んでおらず、私たちは独自に、データを解析するソフトを開発する必要がありました。長い年月がかかりました』
先生や柏さんたちが、一番苦労してきたのは、そこだ。
高価なデバイスに性能で劣ることのないよう、一から自分たちですべてを開発してきた。
そして結果的に、先生たちが選択したデバイスがたたき出してみせた解析の精度は、他社の高額なものを圧倒的に超え、話題になったのだ。
本業とは畑違いの分野だったから、社内に味方はいなかった。
他社との繋がりも全部自分たちで築いていかなきゃならなかった。
営業回りみたいなこともしたんですよ、と柏さんが懐かしそうに語ってくれたことがある。
そんな苦心を、「長い年月がかかりました」というフレーズだけで語り、先生は実にあっさりと「ですが、できました」と話を進めた。
裏側を知っている私は、その潔さに感服して、いずれここで語られなかった秘話を記事にしてくれる媒体さんを、絶対に見つけようと思った。
「webの媒体や、お客様のブログにも情報が出はじめてますので、まとめますね」
「よろしく、例の媒体さん、眞下さん張りつきっていう特別待遇にかなり満足してくれたみたいだね、わんさか記事書いてくれてる」
「一安心ですね。露出がひと段落したら、改めて開発とも共有しましょう。あと打ち上げですね、また香野さんに任せてもいい?」
「はい、日程を絞っておきます」
もう12月に入る。
忘年会シーズンの始まる前にしたほうがいいだろう。
すぐ連絡しよう、と決めて、もしかしたらその打ち上げが、先生と社外で会う最後のチャンスになるのかもしれないと気がついた。
「で、あの子、大丈夫だったの?」
「うん、なんとか。大助さんにもお礼を伝えてね」
「すごく心配してたよ、彼女のほうがあのボーイにかなり執着してたの、店長以外はみんな知ってたもんだから」
「歩くん、もてるなあ…」
この間のお礼にと、私の奢りで早絵を飲みに連れ出した。
大助さんには車まで借りたし、本当に彼らがいなかったら、あの日、歩くんはどうなっていたかわからない。