性悪女子のツミとバツ
「何も母の所為じゃないわ。いい年した大人だもの。これは、自分の責任。私が悪かったの、ただそれだけよ。」
「いや、それがそもそも違う。今回のことは、萌だけが悪い訳じゃない。むしろ、婚約者が居るのに、他の女にも気を持たせた男が悪いと考えるのが普通だろう?」
「そうかしら?」
「そうだよ。普通は二股を掛けてた男が一番に責められるべきだ。それに、相手の男じゃなくて、わざわざ会社にまで押し掛けて君を殴りにきた女もズレてる。」

俺の話に納得がいかないような表情をしつつも、静かに俺の話に相槌を打つ。
俺はそこまで喋ると、もう一度彼女の瞳をしっかりと捕らえた。

「あと、何となく様子がおかしいなと思いながら、気が付けなかった俺にも責任はある。」
「それは、おかしいわ。むしろ、あなたが居なきゃ、彼女より先に私がおかしな行動を起こしてたかも。あなたには感謝してるの。だから、会社には本当の事を言うわ。あなたへの誤解もちゃんと解く。」

俺の目を見つめ返して、宣言する萌は鼻息荒く、これだけは譲れないと言わんばかりだ。
そんな彼女に、俺は思わず小さくため息混じりに言葉を漏らした。

「やっぱり、自分で背負おうとするんだな。」
「だって、これは私の罪だもの。」
「お前の罪は、俺の罪でもある。」
「何、そのジャイアンみたいな理論。」
「百歩譲って、全て萌の罪だとしても、俺も一緒に罰を受けると決めている。」
「はあ?どうして?」
「わからないか?」

今度こそ、と大きく息を吸って、しっかりと言葉を彼女の元へと届けた。


「安井萌と一緒に生きていこうと、俺はすでに決めてるから。」

驚く萌の手に自分の手を重ねた。
慌ててテーブルの上から引っ込めようとした彼女の手を、逃げられないようにがっちりと掴んだ。

「勝手に決めないでよ!」
「何とでも、言え。どれだけ喚かれても、俺の意志は変わらない。」

どうしようもなく、嬉しいんだ。
あの時、タクシー乗り場で。
萌が手を伸ばしたのが、俺だったことが。
俺に助けてほしいと、直感的に思ったんだろう?


彼女のSOSは、もう逃さない。

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