性悪女子のツミとバツ
「萌?どうした?」
リビングの扉を開けるなり、私の異変に気がついた彼は、慌てて私の側に屈んで顔を覗き込んだ。
私は背もたれから体を起こして、彼の瞳をまっすぐに見つめる。いつもと変わらぬそぶりでゆっくりと唇を動かした。
「おかえりなさい。ごめんなさい、夕食作れなくて。」
「いいよ、そんなの別に。具合でも悪いのか?風邪とかひいた?」
「ううん、そうじゃなくて。」
「じゃあ、何か落ち込むようなことでもあったか?」
「ううん、むしろその逆…かな?」
「何だよ、そりゃ。早く言えよ。」
とりあえず、私の口ぶりから慌てるような事ではないと判断したのか、彼がネクタイを緩めながら体を起こす。
その時、彼がリビングテーブルの上に置かれた白いスティックを視界にとらえたらしい。突然一点を見つめたまま目を見開いたかと思えば、その目がうれしそうに細められる。自然と上がる口角を照れくさそうに隠しながら、再び私と視線を合わせた。
「私、妊娠したみたい。」
わざわざ告げなくても分かっているだろう事実をちゃんと自分の言葉で伝える。
その内容に似つかわしくない、素っ気ない態度で。
彼はそんな私を何も言わずにその腕の中に抱き入れた。
「やべー、すげぇ嬉しい。」
「驚かなかった?」
「驚いたけど、そんなのどっか行くくらい嬉しい。」
「それは、よかった。」
私の照れ隠しの素っ気ない返答にも、彼はぎゅっと抱きしめている腕に力を込める。