性悪女子のツミとバツ

「あの夜かな?」
「…かもね。」
「ああ、翌日にこれでもかってくらい自己嫌悪したけど、これで帳消しだ。」
「どんな理屈よ。」
「いや、今の俺があの日の俺に言ってやりたいだけ、グッジョブって。」
「あの日のあなたは聞く耳持たないと思うわよ。」

「そうかも」と目の前で笑う彼には、“あの日”酷く荒れていた男の面影はない。
夜中に帰ってくるなり、とても傷ついた瞳で縋り付いてきた人物とはとても同一人物だとは思えなかった。


『萌、頼む。何も聞かないで。」

彼はそう言って、玄関の壁に私を押し付けた。
最初から奪うように激しいキスと容赦なく責め立てる指。
かなりの量、お酒を飲んできたのか、重ねられた唇からはきついアルコールの匂いがした。
それでも、いつもとはまるで違う様子の彼を、私は不思議とすんなり受け入れていた。
彼にその日、何か良くないことがあったことは明瞭で、おそらく夢中でセックスでもしていないと、その気が紛れることはないのだろう。

ベッドになだれこんで、すぐに体を深く繋げてきた彼の背中に、しっかりと腕を回す。
避妊をしていないことには、気がついていた。
記憶の限り、この二年間で彼が避妊を忘れたことは一度もなくて、それは、私のことを大切に思ってくれているからこその行動だと分かっていた。彼のそんな誠実なところにも私はとても惹かれていたというのに。
かなり強引に、半ば無理矢理抱かれても、嫌だと思う気持ちは少しも生まれてこなかった。
むしろ、その時の私は、これ以上ないくらいに幸せだった。
彼が自分に甘えてくれているという事実が、ただ単純に舞い上がりそうになるくらい嬉しかったのだ。

結局、その夜は、彼が疲れ果てて眠ってしまうまで、私は彼の要求のすべてを受け入れ続けた。
快感に押し流されそうになりながらも、彼が眠りにつくまで、私はなんとか意識を保つ。

ベッドに身体を投げ出して、静かに寝息を立てる彼の頭に手を回して、優しく髪を梳くように撫でた。
それは、彼がいつでも私にしてくれたことだった。
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