うそつきハムスターの恋人
出勤して、メールチェックをしていると、パソコンの向こうから加地くんが顔を覗かせて、「もう大丈夫?」と聞いてきた。

「うん。こんな声だけど、もうすっかりいいの」

「本当、すごい声」

加地くんはくすくす笑った。

午前中は電話対応をしながら、課長に頼まれていた見積もり作成をしていたら、あっという間に時間が過ぎていった。

「ひさびさに一緒にお昼いかない?」

加地くんの言葉で時計に目をやると、お昼休みの時間になっていた。

スマホとお財布をスーツのポケットに入れながら、私のそばに来た加地くんは、パソコンをちらりと見たあとで、空いている喜多さんの椅子に腰かける。

「きりのいいところまで終わるの、待ってるから」

ポケットに入れたばかりのスマホを取り出して、手の中で眺めながら加地くんはおっとりと言う。

「え? でも、まだちょっとかかりそうだけどいいの?」

「いいよ、待ってる。前に大澤さんと言った野菜の店行きたいんだけど、男ひとりで行くと浮いちゃうから良かったら付き合ってよ」

「わかった。急ぐ」

加地くんの言う野菜の店とは、農家から直接仕入れた無農薬野菜の料理を出すお店だ。
会社からすぐの場所にあって、野菜たっぷりのランチが食べられるから、私は喜多さんとたまに行くのだけど、ある時加地くんを誘って行ったら加地くんもとても気に入ってくれたらしい。
だけど、いつ行っても女性客ばかりだから、たしかに加地くんひとりでは行きにくいと思う。

加地くんとランチに行くのは久しぶりだ。
私はなるべく早く切り上げるべく、キーボードを打つ指を早めた。
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