そのキスで教えてほしい
いつも見ている仕事の時の崎坂さんとは違う。
どんな表情をして、どんな言葉を囁けば女が黙って言うことを聞くのかわかっているような。

崎坂さんに触れられている唇が熱くなっていくのを感じていた。

こんなところで何をされてしまうんだろう、私。

高鳴る鼓動。震えるようなその感覚に限界を感じていたら――口元から離れた手は何事もなかったように戻っていった。
ああ――。

崎坂さんは気づいていたらしい。通路を一人の男性社員が通ることを。

私にはその男性社員の足音なんて聞こえていなくて、通ったときに漸く気づいた。

彼の囁きが頭から離れない。
手に持っているペットボトルををぼんやりと眺めて、しばらく動けなかった。
顔、赤い。間違いなく赤い。

ずっと火照りはおさまらず、それから崎坂さんの顔を見ることができなかった。

なんだろう、これ――
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