そのキスで教えてほしい
本当になんだったのかな。

「鈴沢と二人で仕事以外のことを話したかっただけ」

と、崎坂さんは言っていた。
お茶を飲み終えて、変な気分のままオフィスへ戻り、仕事もないので帰ることにした。

崎坂さんも帰るみたい。

隣のデスクで帰り支度をしている彼を私は気にしていた。
タイミングを合わせるつもりはない、と思うのに崎坂さんが気になって待ってしまう。

結果、崎坂さんの少し後くらいにデスクを離れた。


「鈴沢の自宅は会社の近くなんだっけ」

「は、はい」

通路に出たら崎坂さんが振り返って、落ち着いたそのいつもの声でさえ、そわそわした。

距離が縮まり、並んで歩く。

どうして?と聞きたくなるくらい、胸の音が速い。

すれ違った女性社員にちらちら見られて、少しだけ焦った。

エントランスを通り建物から出て、敷地の外へ歩いていき、近くにある横断歩道を渡る。

「あ、あの、私はバスなので右に行きます」

「俺は駐車場に向かうから左」

がっかり。なんて、何に対してがっかりなのか。

心の奥にある“期待”は、きっと先程の崎坂さんの行動と言葉が原因だ。

『鈴沢に興味あるし』

もし人が通らなかったら、どうなっていたんだろう?
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