そのキスで教えてほしい
動く唇は止まらなかった。
非難したくて仕方なかった。
言葉には心にある悔しさや悲しさが混ざっている。

腕を掴んだまま私を見下ろす崎坂さんは、目を細めて余裕を見せつけた。

「何で傷ついた顔してんの?」

「っ……」

淡々とした声に見抜かれた私は、奥歯を噛み締めて気持ちを抑え込む。

すると、崎坂さんはもう片方の手で私のコートの襟を掴み、引き寄せた。

唇を掠めた時みたいに――

「最低か……本当に俺がそういう男なのか、試してみる?」

そばで響いた崎坂さんの声に、喉の奥がひくついた。

私を見つめるその瞳が蠱惑で、悪戯に緩む口許がずるくて。

そうやって誘惑してくる崎坂さんが許せない。
なのに、鼓動が速まってしまった自分が信じられない。

手遅れだった。

「離してください……!」

振り払った手は、意外と簡単に離れた。
自由になった腕を引き、崎坂さんに背を向けて歩きだす。

やってきた電車には崎坂さんとは別の車両へ乗り込んだ。

車内のドア近くに立ち、掴まれていた部分に触れる。

そして唇を引き締めた。

私を何ともない様子で見つめていた崎坂さんが頭に浮かぶ。

すると視界が歪んだ。
涙が落ちそうになって、流れ出る前に指で目元を拭った。

濡れた指先は冷たくて。
泣いて震える頬は熱い。

これ以上惹かれてはいけないと言い聞かせていた。その時点でもう、手遅れだったんだ。
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