そのキスで教えてほしい
「悪いな、わざわざ持ってきてもらって」
「大丈夫です……はい、どうぞ」
崎坂さんの目の前に立った私は、鞄から彼のスマートフォンを取り出して渡す。
「ありがとう」
「いいえ……」
スマートフォンを受け取った崎坂さんは、そのまま私の前に立っている。お互い沈黙した。
私は崎坂さんの顔を見ないようにしているから、相手がどんな表情をしているのかはわからない。
用は済んだのだから帰ろう。そう思っている反面、崎坂さんがなにかを言ってくるのを待っている自分がいた。
だけど、続く沈黙に堪えられそうにない。
「……それじゃ、帰ります」
俯いたままそう言って崎坂さんに背を向けようとしたとき、右腕が掴まれた。
「鈴沢」
私を呼んだ崎坂さんの顔を、驚きながら見る。
「これ、わざと忘れた」
「……え?」
「お前と話したくて」
崎坂さんはぎゅっと、私の腕を掴み直した。
彼の真剣な眼差しから逃れるように、私は顔を逸らす。
話がしたいって、なに? この前のこと?
湖島さんが好きな木村さんと抱き合っていたことの話なんてしたくない。
あの時のふたりのことも、自分が崎坂さんにとった態度も、もう忘れたい。
嫌な気持ちにしかならないのだから。
「私は、話すことなんてないですから」
「鈴沢、」
「話したくないです!」
私は思いきり腕を引いて崎坂さんの手を振り払った。
「帰ります」
崎坂さんの顔を見ることなく、再びそう言って私は彼に背を向けた。
馬鹿みたい。またおかしな態度をとってしまった。
これこそ、同僚としてどうなのよ。普段の関係をこじらせたくないなら、話くらいするべきなのに。
歩きながら後悔するけれど、振り返ることはできない。
どうしても……できなかった。
「大丈夫です……はい、どうぞ」
崎坂さんの目の前に立った私は、鞄から彼のスマートフォンを取り出して渡す。
「ありがとう」
「いいえ……」
スマートフォンを受け取った崎坂さんは、そのまま私の前に立っている。お互い沈黙した。
私は崎坂さんの顔を見ないようにしているから、相手がどんな表情をしているのかはわからない。
用は済んだのだから帰ろう。そう思っている反面、崎坂さんがなにかを言ってくるのを待っている自分がいた。
だけど、続く沈黙に堪えられそうにない。
「……それじゃ、帰ります」
俯いたままそう言って崎坂さんに背を向けようとしたとき、右腕が掴まれた。
「鈴沢」
私を呼んだ崎坂さんの顔を、驚きながら見る。
「これ、わざと忘れた」
「……え?」
「お前と話したくて」
崎坂さんはぎゅっと、私の腕を掴み直した。
彼の真剣な眼差しから逃れるように、私は顔を逸らす。
話がしたいって、なに? この前のこと?
湖島さんが好きな木村さんと抱き合っていたことの話なんてしたくない。
あの時のふたりのことも、自分が崎坂さんにとった態度も、もう忘れたい。
嫌な気持ちにしかならないのだから。
「私は、話すことなんてないですから」
「鈴沢、」
「話したくないです!」
私は思いきり腕を引いて崎坂さんの手を振り払った。
「帰ります」
崎坂さんの顔を見ることなく、再びそう言って私は彼に背を向けた。
馬鹿みたい。またおかしな態度をとってしまった。
これこそ、同僚としてどうなのよ。普段の関係をこじらせたくないなら、話くらいするべきなのに。
歩きながら後悔するけれど、振り返ることはできない。
どうしても……できなかった。