そのキスで教えてほしい
私服姿は以前も見たけど、きっと崎坂さんのような人は何を着ても似合うのだろうなと思う。

スーツ以外の彼を見慣れていないから、だから胸が鳴ってしまうのだと、心のなかで必死に言い訳を作っていた。

私がシートベルト着けると、目的地も何も告げずに車が走りだす。

「あの、どこに行くんですか?」

気になって聞くと、崎坂さんは唸った。

「決めてない」

「……へ?」

調子のはずれた声になった私をちらりと見た崎坂さんは笑った。

「ノープラン。とにかく休日も鈴沢に会いたかった」

前を向きながら落ち着いた様子でそう言った彼の横顔を、私はぼうっと見つめてしまった。

なんですか、それ。
そういうことを平気でさらっと言われると困る。

一瞬、嬉しいと思ってしまった……。

「……じゃあ、映画見ますか?」

強引に決められた今日なのに、自分から提案するなんて。

「ああ。映画、見ようか」

わずかな笑いを絡ませながらそう言った崎坂さんに、どこかときめいている自分がいた。
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