そのキスで教えてほしい
再び表れたくすぐったさに堪え、私は視線を落とした。

「楽しかったです」

「ああ、」

「映画が」

「……そっちかよ」

崎坂さんが苦笑する。

いつも私をいたずらな表情で見てくる彼へ、私もいたずらな笑みを浮かべた。

崎坂さんはそんな私にすっと視線を向け、目を細める。
瞬間、自分の持っていた余裕をすべて奪われてしまったような気がした。

「まだ六時。帰るには早いか?」

「えっ、と」

「……なんて。『健全なデート』だから、今日はこれで終わりだよ」

唇の端を上げた崎坂さんの表情に、私の鼓動がいっきに騒ぎだす。

恥ずかしいことが一瞬頭をよぎってしまったことは、どうか知られたくない。
だから俯いて、「そうですね」と言った。

車が動き出す前に崎坂さんが私をのことをじっと見ているような視線を感じたけれど、顔を上げることはできなかった――
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